月夜見 “ゴールデン・スクープ?”
         〜大川の向こう

 
駆け足でやって来た春に追い抜かれたことが癪だったのか、
それとも早々に去った冬将軍から置いてけぼり食ってた輩の仕業というやつか。
それこそ例年通り、初夏のようなという形容詞が付き物のお日和が、
後半は突然の、しかも随分と強烈な寒の戻りが襲い来て。
北海道は雪だったんだってというほどもの
すったもんだだったGWの浮かれ気分も
何とか落ち着いた五月の半ば。
母の日を前にして、
ウチはお姉ちゃんとケーキ焼くんだよなんて
女子がキャッキャと盛り上がっているのに比し、
ああしまった、小遣いがないぞ、つかアイデアも沸かないと、
男子がドキドキしちゃう…のって、今も変わりないんだろうか。

 「ウチは兄ちゃんがオムライス作るぞ?」
 「え〜? エース兄ちゃん、りょーりも出来んのか?」
 「すげーっ。」

そだろ、そいでオレも手伝って、
マキノへって ケチャップで字を書くんだと、
鼻高々なルフィ坊っちゃんだったりし。
器用なお兄ちゃんに乗っかる王子のえっへんで沸いている、
男の子たちの遊び場、坂の上の公園の大すべり台のふもとだったが、

 「あ、チャボだ。」
 「久し振りだな。」

小学校へ上がって、だが まだまだ遊ぶ時間優先のちみっこたちなので、
先程のルフィ坊っちゃんの“母の日”の予定じゃあないが、
ちょっとした休みの計画も家族の立てたのに乗っかる場合が殆どであり。

 「GWは どっか行ってたんか?」

ご当地での行事として、子供の日に神社へ参る祭りが一応はあったのだが、
そちらの坊やのご一家はお顔を見せなかったものだから。
大人たちの間では、
全員でバカンスに出ていたらしいというご事情が通じていたらしかったが、
毎日何かしらで楽しかったので忙しく、
居ない人のことまで詮索するほど暇じゃあない子供らにすれば、
1週間もどこ行ってたんだろと、
今になってから やっと本人から聞けるという順番だったりし。
坊主とまではいかないが、それでも短めに刈られた髪といい、
どうせ汚して来るのだからということか、
襟首や裾がちょみっとダレてるTシャツとか、
いで立ちにも態度にも、他のお子様たちと それほど差はない坊や。
すべり台の足場になってるセメントの乾いたところへ腰掛けながら、
うんと素直に頷くと、

 「とうきょーのネズミーに行ってた。」

 「お?」
 「ネズミー?」

そういや今年は30周年だそうで、
あちこちのテレビ番組で特集も組まれていたような。
少しずつパビリオンも増え、コートも広がり、
お隣りに海をテーマにした広大なエリアも誕生しのと、
リピータへ“どれだけ通っても飽きない”と言わせる
創意工夫満載の、そりゃあビッグなテーマパークであり。

 「凄げぇな、行ったんだ。」
 「1日だけか?」
 「ん〜ん、近くのホテルに泊まって2日居た。」

何でも、年の離れたお姉さんからの
長年に渡って言い続けていたリクエストだったそうで。

 「父ちゃんは すかいつりぃを観たいって言ってて、
  じゃあこの際だから どっちも回ろうってことになったんだ。」
 「凄げぇ〜。」

実のところ、遠出なら何でも“凄い”になるお年頃。
それに、ネズミーといや、映画とかアニメとかで馴染みが無いでなし。
有名なスポットへ行ったのか凄げぇという、
実に単純な図式からのこと、皆してドッと沸いたものの。
裸足に運動靴をじか履きという足元を見下ろすと、
ご本人はあんまり嬉しそうでもない様子で、ん〜んと再び首を振る。

 「??」
 「何だよ、面白くなかったんか?」
 「だってよ、乗り物はあんまり乗れなかったしな。」

姉ちゃんや母ちゃんはサ、
景色とかパレードとか凄い凄いって盛り上がってたけどサ、

 「何か、ずっと並んでばっかだったみたいな気ぃするし。」

同じネズミーだったら映画を観に行ったほうが楽だったような気がすると、
ちょいとツボがズレてたらしく。
家族旅行は楽しかったものの、
行き先のチョイスでは、彼にはやや残念なお出掛けであったらしい。

 「それよか、ルフィの方が凄げぇじゃんか。」

自分より誉めそやされていいのによとでも言いたいか、
ひょいとそんなことを言い出して。

 「???」
 「何だよ、チャボ。」

ずっとお顔も見てなかったのに、
ルフィはずっとこの里から出なかったのに。
そんな彼だのに何か知ってるような言いようをするのへ、
一体何が凄いというのさと、
ご当人はキョトンとし、
周囲の坊やたちが 何だ何だ早く言えよと聞きたがったのへ、

 「テレビだよ、テレビ。」
 「テレビ?」

うんと頷いたチャボくんが言うには、

 「ほら、川向こうの大町のケーキ屋さん。
  あっこって結構有名なトコらしくてサ、
  向こうで観たテレビで紹介されてたんだけど。
  どのケーキが一番美味しいの?って、
  司会の○○に訊かれて、
  栗のもイチゴのも美味しーぞって答えてたろ?」

 「○○? あ、そだそだ。訊かれたぞ♪」

マルチタレントのお姉さん、
ショーウィンドウのケーキの中でボクはどれが好きかな?と、
ちょうど居合わせたルフィに目が留まったらしく
ひょいとマイクを向けて来たのだとか。

 「でも、それってずっと前の話だぞ?」

ゴルデンウィクより前だったのによと、
あれれぇ?と小首を傾げるルフィさんへ、

 「それだけじゃなくってサ、
  東京の体育館でやってた剣道の試合のニュースでも。」

坂の道場のくいな姉ちゃんが、凄げぇ強いって取材されてて、
都大会に出るまでっていう特集があってサ。
女子なのに凄い強いねぇって、
練習してるとことか ランニングしてるとことか映ってたんだけど、

 「途中で母ちゃんが気づいたんだけどよ、
  ルフィがチョロチョロいっぱい映ってたぞ?」

 「え〜〜〜っ?!」

別にカメラに向かってVサインとかしていたワケじゃあないけれど、
一緒に食卓を囲んでいるところや
ゾロに構ってもらってるところとか、
それをくいなちゃんがからかう様子とかが、
なかなかにほのぼのとした雰囲気で取材されていたそうで。

 「どっちも弟みたいなもんですよって、
  くいな姉ちゃんも言ってたし。」

 「え〜? 覚えてないなぁ。」

くいな姉ちゃん、隣町とかの道場にも出稽古とか行くってゆーし、
俺、そんなまで くっついてかねかったけどなぁと。
かっくりこっくり首を傾げるばかりのルフィな辺り、
ご本人には もはや記憶にさえ残ってないことになってたようで。

 「凄げぇな、ルフィ。」
 「そぉかなぁ。」

自分は観てはないものか、
今イチ感慨もついて来ないらしい坊ちゃんだったが、
実は…父上がしっかり録画しての保存してもいるそうで。
それが明るみになって ひと悶着あったりなかったりは、
また別のお話だということで……。




  〜どさくさ・どっとはらい〜  13.05.16.


  *母の日の前辺りと、日にち設定が1週間遅れですいません。
   関西はアニワンも1週間遅れで放映されてますんで。
   …って、おいおい理由になるかい。
(苦笑)

  *それはともかく。
   先日、何のトークバラエティだったか、
   最近の小学生は、
   TV局の中継クルーを見かけても
   あんまり画面へ割り込んでのVサインって
   しなくなったねぇと言われてまして。
   デジカメなんぞの普及から、家庭で撮影慣れしてて、
   さほど興奮して駆け寄っては来ないと言いたかったか。
   でもでも、TV局のカメラはまだまだ別格で、
   単に ADさんたちが
   必死で阻止しているだけのことでは?と思ったものですが。
   だって、
   ズームインとか いいとものオープニングとか、
   ニュースショーの中のお天気のコーナーの
   花見じゃ、リゾートじゃ、お祭りじゃの中継とか、
   結構 人垣出来てるし、携帯で写メ撮ってるし…。

   それとも、東京在住の人たちは、
   芸能人を見かけてもそうそう寄ってかないと聞きますから、
   それと同じように
   東京の小学生たちはTVクルーにも慣れてるってことなのかなぁ?

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